ストラスちゃんネット

ユーザー投稿型コミュニティブログ。執筆者はゲーマー中心で投稿ジャンルはエンタメ全般。随時寄稿者募集中。

steam『Oneshot』

例のごとく未プレイ者はネタバレ注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あるいはメタなストーリー。

私はコンソールを立ち上げ、ゲームにアクセスする。メニュー画面が表示され、セッティングを整える。椅子の座り心地を確かめるようなものだ。何を変えるでもなくオプションを閉じた私は、これから始まる新しい物語へと期待に胸を膨らませ、スタートボタンを押す。コントローラから伝わる信号が端末に処理されてプレイヤーキャラクターに命令が伝わり、前へ進む。物語が進行していく。時折悩み、歓び、怒り、哀しみ、間接的な作者との対話を繰り広げながらお話はいずれ幕を下ろす。初めから私はこの世界に終わりが来ることを予期していたのだ。終わりの来ない物語など無い。私達はその一時の快楽のために世界を生み出し、そうして壊すのだ。跡形もなく。役目を終えた物語は暗いデータの狭間に取り残される。プレイヤー無しに世界が再び動き出すことは無い。

 

そんな数ある物語の一つになるはずだった、このゲームもまた。その名はOneshot。一度きりの冒険。

プレイヤーキャラクターはニコ。黄色く光る大きな瞳が特徴の、愛らしいケモっぽさのある子供だ。性別は不明らしい。ニコは自分のことを「ミー」と呼ぶ。猫みたいな見た目とそのあどけなさにぴったりの一人称だ。

 

今回の使命は "世界を救うこと" 。

私は救世主になるらしい。だが、どうやら今回は様子がおかしい。 "私" と "ニコ" が別の存在として扱われている。ビデオゲームの世界では、私はプレイヤーキャラクターへと憑依するのが常ではないのか。それなのに一つ次元が上の存在として扱われる。つまり端的な言葉で表すとこの作品はメタな物語なのだ。

 

ゲームが、創作のキャラクターたちが本物じゃないなんてことはわかりきっている。それなのに創作者がこれらは全て偽物なんだと殊更に強調したがるのは何故だ。本当にそこに超えなければならない壁はあるのか。全てを受け入れた上で一時の快楽を求めに来た作り物のユートピアがそこにはあるはずだった。

 

この世界は至るところが壊れかけている。この世界を救うことは、私にしか出来ないことなのだと言う。私は、このゲームを終わらせるために作り物の世界を救うことにした。

私の見るこの物語は、私だけのものだ。私にしか救うことが出来ない。

 

私は塔へ行き、その頂上にこの世界での太陽となる電球を据え付ける。

そこで、私の旅は終わるはずだった。いつものように、世界を救っておしまい。

 

だが、果たしてゲームの終わりとは何なのだろうか?私がここで世界を救っても、またゲームを起動すれば世界は元通り。プレイヤーキャラクターとして召喚されたニコは、元いた世界に還ることも出来ずに永久にこの世界に縛られ続ける。

 

Oneshotは世界の終わりで私に一度切りの選択を迫ってきた。

世界を救ってニコをこの世界の観測者として無限の牢獄に繋ぎ止めるべきか。

それとも、この世界そのものを終わらせてニコをゲームからも私自身からも開放し、自由と幸福のある世界に還してあげるべきか。

 

 

 

私は、電球を割った。

 

 

 

 

 

本当に、これで良かったのか?

この世界には意志のないただのスクリプトしか存在しないし、唯一意思を持つように見えるキャラクターはプレイヤーキャラクターであるニコだけだ。

選択は私に委ねられていた。どちらを選んでも私の現実世界には何も影響を及ぼさない。

何を選択したって所詮ゲームの中の束の間の出来事だ。

 

それでも、私は物語の世界を幸せにしたい。もし私の選択で救えるのなら、作られたキャラクターたちにも幸せになって欲しい。現実に生きる人間たちと同じように、限られた生を全うして欲しい。

 

私は終わった世界に再びアクセスし、全てをリセットした。私の記憶だけを引き継いで。

 

ニコを救い、世界も救う。そんな理想のエンディングが、この世界にも残されているはずだ。作者だって、きっとそれを願ってこの世界を生み出したに違いない。たとえコードで組まれただけのこの世界であっても、作者と、私と、ニコの三人の力を合わせれば異なるエンディングを迎えることが出来る。

 

崩落する世界の間隙を縫いながら、この世界の全てを救う道を探り出す。スクリプトで動くキャラクターたちにもまるで意思が灯ったのように私とニコを助けてくれる。ただ座して救いを待つだけのキャラクターではなく、命を賭して世界を救うその一員として。

 

詰まるところ、物語の価値とは思い出にあるのだ。

作り物に意味はあるのか。物語を読んでも現実世界の何が変わるでもない。私自身が経験値を得てレベルアップ出来るわけでもない。だが、記憶には残る。

救えなかった世界も、救われた世界も、ただそこにある世界も……。

終わってしまったそのどれもが私の記憶の中に生きている。ニコや、カラムス、アルーラ、メイズ、その他のキャラクター、物語の全てが。

 

結末を見届け、私はコンソールを閉じた。この世界の思い出を記憶に残して。

(95点)

 

 

いつか飛び立てる日を夢見て

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