バトロワのゲームデザイン、プレイヤーの守り方について
ゲームデザインの話で私がとても好きな記事がある。
GDCレポート記事が消えてしまったため、こちらを拝借。
簡潔にまとめると
「プレイヤーにただ罰則のみを与えるとプレイヤーの遊び方の幅を狭めてしまう」
という内容だ。
本稿ではこの内容を踏まえた上で
私が遊んだ(もしくは知識として知っている程度の)
バトロワの成功モデルと失敗モデルについて個人的にまとめてみる。
バトロワの基本的なゲームデザイン
バトロワのゲームデザインは大きく分けて以下の3つであり
これらの罰に対して如何に拡張を行ってカバーをしているのかを重点的に調査する。
①多数の参加者に1人の勝者
バトロワ、ハンガーゲームは多数の参加者から1人の勝者を決める戦いである。
要するに9割以上の「敗者」に「下手」というレッテル(罰)を与えるシステムだ。
②縮小するフィールド
バトロワは接敵して1人を決めなければならないため、基本的にはプレイフィールドを縮小する必要がある。
しかし、単純に縮小するだけならプレイヤーに行動範囲を狭めるという罰にしかならない。
③取得アイテムのランダム性
装備が強ければ有利なゲーム性にも関わらず
最初に強い武器や弱い装備を拾うかどうかは単純に運である。
つまり運が悪いせいで上手くいかなかった場合はプレイヤーにとって回避不可能な罰である。
成功モデル
PUBG
① 〇
リアル系だからこそキルタイムの短さや籠りや伏せが強いゲーム性であり
上手い人相手でも1シーンだけ見れば下手なプレイヤーも勝つ可能性が十分にある
② ◎
本作は籠りや伏せが強いため総じて待つ戦法が強い。
ところが、縮小フィールドのダメージは高く、縮小スピードがプレイヤーのダッシュより早いため
同じ場所に長く待つことができない、もしくは乗り物に乗る必要性がでてくるため
プレイヤーは移動せざるを得ず、移動中の敵を倒しやすい上手いプレイヤーが勝ちやすい状況を作り出している。
また、縮小範囲が円形にランダムであることがいつも同じ場所で戦わないというリプレイ性に昇華されている
③ 〇
取得アイテムのランダム性で得をするのは上手くないプレイヤーである。
つまり取得アイテムのランダム性とは上手いプレイヤーへの罰である。
本作はリアル系なので上手い人はキルを多く発生させやすく
結果的には上手いプレイヤーは運が悪くても他のプレイヤーからルートしやすく、装備がキチンと集めやすくなっており
ランダム性による不平等感より多くの敵をキルして装備を強くするRPG寄りの自己承認に繋がっている。
●総評
シンプルな構造だが全体的なバランスの調整が絶妙であり
またバトロワに非常にマッチしたゲームデザインであることが分かる
良くも悪くもシンプル。
Fortnite
① ◎
キルタイムがPUBGよりも少し長くなり、シールドや建築要素もあるため
上手いプレイヤーに勝つことは非常に厳しいゲーム性になっている。
下手なプレイヤーは遊びづらさを感じることもありそうだ。
しかし、50vs50や20人分隊5チーム
ロケランのみピストルのみといったお祭りに近いモードや
Marshmelloのヴァーチャルライブというように
下手なプレイヤーでも楽しめるモードをキチンと用意している。
② ◎
基本的にはPUBGと同じだが、フィールド外にいる時の視認性が非常に悪いため
縮小前にガンガン移動して欲しいという意図を感じる。
プレイヤーにアグレッシブな行動を行って欲しいのだろう。
③ 〇
こちらも基本的な構造はPUBGとほぼ同じだが
プラスアルファで建築に必要な資材をどこでも拾うことができる。
良い武器が落ちていなくても資材を集めることで建築有利をとれる可能性があるため、よりランダム性に対して策が練られていると感じる。
しかし、逆を言えば建築が上手くなければ良い武器を手に入れてもいつまでも勝ちづらいということになるため、一長一短かもしれない。
●総評
PUBGで良かった点をほぼ崩さず、よりポップでコアな撃ち合いが楽しめるように作られている。
また初心者ユーザーへの配慮もイベントを上手く取り入れ手放さないようにしている。
そして何より武器、撃ち合いが派手で非常に配信映えする点が特に優れている作品である。
ただし、バトロワ本来の多人数の中で1位になるモードの事を考えると
建築要素等もありカジュアルなプレイヤーは徐々にゲームから離れてしまう可能性が考えられる。
Apex Legands
① 〇
キルタイムが長く、チームプレイのみということで
下手なプレイヤーにとって最初は難しいゲームである。
しかし、撃ち合いが下手でもチームプレイやキャラクタースキル等で勝てる場合もあり
決して下手な人には楽しめないという訳ではない。
また、死んでもリスポーンするため
ゲームを楽しめない時間が極力減らされている印象である。
② ◎
縮小の段階によってダメージ量が跳ね上がる。
ただし、序盤の縮小はかすり傷程度のためファームをしたり死んでもリスクが非常に低い。
しかし、後半のダメージ量の上がり方によって緊張感が増す。
序盤はチームデスマッチ感覚で楽しむことができ
生き残れば徐々にバトロワになるという絶妙な調整である。
③ ◎
武器に関しては極端に弱い武器がなく、撃ち合い以外の部分で巻き返しが行える程度の差であるが
アーマー等のアイテムは非常に差がでるため一部のアイテムのランダム性は高めといえる。
しかし、チーム制であるため序盤に3人全員が強い装備になるということはあり得ない。
そして、落ちているアイテム、プレイヤーのアイテム所持数をあえて少なめにしており
結果的にファームより撃ち合い(ゲームの一番楽しい部分)を積極的に行わせる調整となっている。
●総評
リスポーンや撃ち合いの長さ、縮小ダメ―ジ調整、そしてチーム限定を取り入れたことで
勝つのが難しいゲームながらも序盤にカジュアルに撃ち合いをさせるように設計されている。
もちろん撃ち合いをするほど上手くなる速度も早いので
今まで出てきたバトロワの中でも一番カジュアルプレイヤーの成長体験を重要視している作品だと感じる。
失敗モデル
Darwin Project
① 〇
まず同時プレイ人数を10人に絞ったことで
すぐに上位にいった=成長したと感じるように設計されている。
そして、撃ち合いではなく近接戦闘がメインのため下手であるプレイヤーは比較的少ない印象だが
上手いプレイヤーはとことん上手く、なかなか勝てないような競技性の高いゲーム性である。
しかし、キルよりファームをしている方が後半は非常に有利になるため
下手なプレイヤーでも最後までチャンスは残されている。
もちろんファーストキルによってかなり重要な資材が手に入るため上手いプレイヤーはすぐキルを狙いにいく戦術もとれた。
② ×
指定のエリアがマスで別れており、一気に禁止エリアになるタイプである。
この方法は動きたくなかったorファームしたかったエリアが禁止になることを事前に予測できないため
プレイヤーには運が悪くて上手く動けないというマイナスの罰則となってしまっている。
また、縮小の運が悪い場合への対応方法がレア資材のゲットかつ
瞬間移動のアビリティを取得するという方法のため
尚のこと運要素が絡んできてしまっている。
③ △
全体的な取得アイテムのランダム性はかなり低めで、マップを覚えれば序盤からしっかりと戦えるようなシステムである。
しかし、一番ランダム性の高いレア資材は取得すれば圧倒的アドバンテージをとれるため
結果的に運要素を非常に強く感じてしまうことがある。
●総評
ゲームプレイ自体は競技性が高くよくできていたが、指定エリアやレア素材によって運が悪くて負けたという印象を所々感じてしまう。
また、本作にはその運要素についての対応策としてゲームディレクターという存在がいる。
このゲームディレクターになったプレイヤーは神視点で色々なイベントを起こすことができるのだが
大抵のゲームディレクターは熱い試合を演出するのではなく、1プレイヤーを贔屓にしたり、上手いプレイヤーに懸賞金を賭けて他プレイヤーから狙わせたりする。
結果として競技性の高さに惚れ込んだプレイヤーが最初は楽しんでいたものの
上手いプレイをしたのにゲームディレクターにいじめられ、勝てた戦いも神に負けさせられる
頑張って上手くなるほどプレイヤーに罰を与えられるシステムとなってしまっていた。
個人的にはかなり好きなゲームだっただけに非常に勿体ない作品だった。
性善説を信じてゲームを設計してはならない。
Dying light Bad blood
① ◎
こちらも10人程度で行う少人数バトロワである。
近接格闘がメインのゲームでありキルよりファームを重要視されているゲームで
コンセプトはDarwin Projectと類似している。
また、Dying lightのパルクールアクションが流用されているので
走っているだけで楽しい、ゾンビを吹き飛ばして楽しい がそのまま残っている。
そのため、負けてもゲームをプレイした楽しさを感じられるような作品となっている。
② ×
本作にはエリアの縮小がない。
勝つためにはファームが非常に重要であり、プレイヤーをキルしても得られるものが少ない。
そのため、慣れてきたプレイヤーは縮小がないからこそ出会えばすぐ逃げてしまい
最後の脱出パートでしか戦わない場合が多いゲーム性となってしまった。
ゾンビを狩るだけならDying light本編を遊んでいる方が楽しい。
③ △
アイテムのランダム性は高いが、ゾンビを狩ることがメインのためあまり気にならない
また、対人は極力控えるため強武器を探し回る理由は薄い。
それよりもゾンビを狩って血を集めることが最優先であり
脱出パートで戦えるほど血が集まっているなら、当然戦える装備にもなっているはず。
それ故にファームが重要視されつつも強アイテム自体の価値は薄い。
●総評
操作性が良く触っているだけで楽しいゲームではあるのだが、真面目にバトロワをしようとすると粗い部分が目立つ。
キルで強武器を集める必要はなく、またファームして強い装備を整える必要性も薄い。
『一番重要なのは誰にもバレずにゾンビを素早く狩って血を集める』に尽きるゲーム性。
ゾンビを狩ってる最中にプレイヤーに見つかることがストレスになり、反撃してプレイヤーを倒してもあまり得がない。
(一応所持してる血を奪うことはできるが、それよりも失う体力や時間のロスの方が痛い)
Dying lightの良さを詰め込むほどバトロワを構成するゲームデザインから乖離してしまった印象。
SOS Survival game
① ×
海外のバラエティー番組のノリで楽しむ少人数制バトロワ
他プレイヤーとその場でチームを組めることが特徴。
ストリーミング配信を主な目的として
コミュニケーションを重きをおいたゲーム性のため
勝者も敗者も笑って楽しめる娯楽的なゲームとなっていた。
しかし、チームを組んだプレイヤーの裏切りも多く
勝者(裏切り者)しか楽しくない場面が往々にして起きてしまっていた。
ストレスチェックゲーム。
② 〇
エリアの縮小はないが、マップが小さく目的地も決まっているため
プレイヤーと接近する機会も多く、色々なイベントが発生しやすくなっていた。
③ 〇
アイテムのランダム性はそこそこ高いが
強武器ほどプレイヤーではなくモンスターに使う必要性が高いことや
アイテム自体も種類や量が少なく、必然的に協力プレイが必要になる設計のため
運が悪くて戦えないという場面はほぼなかった。
●総評
勝敗より人と人が触れ合うことで起きるドラマ性を主軸にした一風変わったバトロワだったが
裏切り行為が多すぎたことでリリース後のプレイヤーは激減した。
性善説を念頭に置いたゲームデザインは破綻する可能性が非常に高いということが分かった。
人口が少なくなり困った「SOS Survival game」は普通の(PUBGのような)バトロワにF2Pモデルで変更したが
既にゲームを買ったユーザーからは批判の嵐
レビューも酷評に次ぐ酷評で今はもう遊べないゲームです。
Dead Spaceの制作陣が関わっていたゲームだけに涙を禁じ得ない。
まとめ
私はバトロワオタクというほど全てを遊べているわけではないが
H1Z1 Realm Royale CoD:BO4 Cuisine Royale
Radical Heights IoN The HAUNT etc...
多くのバトロワが生まれては沈んでいったことは一応知っている。
そして、この多くのバトロワがもたらした知識の蓄積や分析の結果が
今回のApexのヒットに繋がっているということは紛れもない事実だろう。
なぜなら成功しているバトロワは独自のオリジナリティを見せているようで発想自体は別段革新的なものではない。
バトロワの面白さを守るため、基礎的な部分の調整がしっかりと作りこみ、大胆な変更をしていない。
要するにバトロワのゲームデザインはPUBGのような基礎的なゲーム性から変更する余地があまりないくらい完成度が高いということだ。
今あるバトロワプレイヤーのパイを取り合うために全く同じものを作るわけにはいかず、かといって大胆な変更では失敗する可能性が極めて高いというこの状況は後発バトロワ参入の難しさを表している。
新たな面白さを提供できる次世代のバトロワはいつ現れるのだろうか。
下手したら数年後…ということも有り得る、と私は思う。