Google Play『レイジングループ』
0.
低価格帯ゲー(スマホ本編1080円)ながらも、ユーザーから非常に高い評価を得ている本作。「人狼」を題材にした怪奇ビジュアルアドベンチャーということで、昨今の人狼ブームにあやかったミーハー人気なのだろうかと訝しむ気持ちを抱いたところも少しあったのだが、過去の名作「428」や「かまいたちの夜」といった作品にも並ぶ歴史的傑作であるとの評を目にしたこともあり、アドベンチャー魂に火がついたため、この度購入。
プラットフォームはAndroid(Google Play)。エクストラは未購入で、本編1周クリア済み。一応直接的なネタバレは無しで書くつもり。
ちなみに本作はいろんなプラットフォームで遊べます。
公式サイトを見たところ、steam、Google Play、iOS、PS VITA、PS4、switch、その他諸々にて購入できるようです。無料体験版もあります。結構ボリュームがあるので、気になる方は是非遊んでみてください。
一番安上がりに楽しめるのはスマホの通常版1080円。エクストラシナリオ込みのプレミアムセットは1600円。その他DL版は3000円。パッケージで買いたければPS4の3600円です。スマホの通常版は一番古くパートボイス、各種DL版はフルボイスなどの追加要素があるのですが詳しくはググってみてね。
1.
好みで言えば劇画タッチな濃い絵柄には苦手意識がある。私はモエモエのゆるふわなイラストが好きなオタクだが、果たしてこの陰鬱な雰囲気ただようグロテスクな怪奇ノベルに軽い絵柄がマッチするのだろうかと考える。
そして、やはりこの絵だからこその老若男女の統一感や、閉鎖的な村落の雰囲気、個性的な一本芯のあるキャラクターの魅力を感じられるのだということを再認識する。
ていうか私、プレイ後の感想としてはヒロインみんな可愛いと思いますよ。やっぱり千枝実さんが一番です。
対して幕間ではゆるい雰囲気のデフォルメされたキャラクターが登場する。盤上と盤外の扱いの違い、オンオフのはっきりと区別された部分も、この作品の一つの特徴である。
それは暴露モードと言う人狼の舞台裏を覗ける裏ルートがあることからも伺える。
(暴露モードはあんまり読んでないです)
2.
本作は「死に戻り」と「鍵」が物語の主軸となっている。
まずは一つ目の「死に戻り」について語るとしよう。
死に戻りという名の通り、分岐によって頻繁にゲームオーバーになるのだが、これを一般的なセーブ&ロードの仕組みで実現しようとすると、同じくセーブ&ロードも頻繁に行うことになってしまう。
加えていつ死ぬかわからない以上、セーブデータの管理も煩雑になるし、クイックセーブはいかにもシステマチックで味気ない。
これらの管理を一挙に引き受けてくれるシステムがフローチャートシステムになる。
このフローチャートシステムが存在するおかげで、繰り返し同じ地点からスタート出来、かつ異なる展開を回収しながら選択肢によって鍵をアンロックしていくという複雑な分岐をわかりやすく可視化することが出来ているのである。
フローチャートシステムは高い完成度を誇るのだが、アドベンチャーゲームにおける採用率はあまり高くない。一つには魅せたいものに対してシステムが複雑になりすぎてしまうこと。また、使用されるゲームエンジンが一因となっているのかもしれない。
旧来のセーブ&ロードのシステムはテキストの進行と時間軸の流れが固定化されてしまうように見えるという欠点がある。同じ時間軸で異なる展開を見せる術として、選択肢による分岐があるのだが、これは細かいテキストの違いを読ませる目的としては向いていない。
ゲームにおけるストーリーテーリングとしての特徴はこの選択肢による分岐とセーブ&ロードシステムにある。しかし、これを用いた手間がかかるばかりで意味のない選択肢での足止めやカサ増しは卒業すべきだ。ゲームとしての"意味は持たせられるが、"ゲームである"意味は持たせることが出来ない。
その点フローチャート式はいいことずくめだ。本作は物語の構造からもこのフローチャートシステムを有効に活用出来ている。(とは言え何にでも活用できる手法ではない)
選択肢による分岐で幾度もゲームオーバーになることがあっても快適なプレイが出来るのはひとえにこのシステムのおかげだ。
3.
そして、二つ目が「鍵」の存在だ。
物語が進行していくと、鍵を集めねば先に進めない扉が行く手を阻む。
さて、一般的なノベルにおける選択肢というものは、物語上の必然となる事象の印象を際立たせるためのものであり、選択からのフィードバックがあって初めてその意義が生まれてくる。
フィードバックには事象の結果が変わるもの、新たな情報を入手できるもの、反応が変わるもの等がある。
反応が変わるものについて、バタフライエフェクト理論を援用するのであれば僅かな反応の変化すらも考慮する必要もあるが、そこまで細かな違いを物語に反映することは現実的には限界がある。これらは概ね物語のプロットには影響してこない選択だということだ。
それとは別に、何も変わりはしないもの、選択したという事実のみを強調するためのものがある。プロットには影響しないが、物語の受け止め方、心情に訴えかけてくるものがこれに当たる。テキストが止まると共に思考を停滞させ、ある事象を熟慮させることが目的となる。小説とは異なるインタラクティブノベルとして、この仕組みは十二分に機能していると言えよう。
最後に、新たな情報を入手する選択肢がある。間接的にプロットを変える、もしくは物語に対する印象を変えていくものになる。どちらにしてもその変化は大きい。間接的にプロットを変えるとはつまり必須キーの一つを入手する行為と言い換えることが出来る。
複数の情報を入手することにより、プロットを変える"結果"を生み出す。キーによるルートのアンロックがこれに当たる。キーを表示するとユーザビリティが高まる一方、物語の構造を把握されてしまうという欠点がある。
どの程度構造を開示するかのさじ加減でプレイフィールも変わってくる。
『街』や『428』といったザッピングシステムの肝がこれで、分岐した全ての物語が収束するチャート図は機能美も兼ね備えている。
4.
長くなったが、本作における肝は、キーの入手とゲーム内ゲーム(人狼)のルールを重ね合わせたところにある。
一般的なノベルにおける選択は抽象的で、結果への影響がわかりにくい。
対して本作では、メインに人狼ゲームを攻略するという目的を据えることで、結果に対して直接的な影響を与え、より能動的な選択を行うようプレイヤーを誘導することに成功している。
また、分岐を辿り取得情報が増えることにより、更に人狼ゲームの攻略が進むというポジティブな攻略サイクルを生み出す結果へと繋がった。
物語の解読と、ゲーム攻略のシームレスな連携が心地よいプレイフィールを生み出している。
そこに没入感を削ぐものは何もない。ただ物語に熱中することが出来、気付くと夜は明けている。
5.
そして圧巻のラストシーン。私はこのプロットは他に類を見ないものであり、すべからく褒め称えるべきものだと考えている。
前述した物語の構造を把握されてしまうという欠点を反転させたシナリオは見事としか言いようが無い。
荒唐無稽にも思える人狼村のおぞましい因習を、風呂敷を広げながらも綺麗に畳んでいく展開の妙技も一つの見どころ。
いくらかの説明のつかない現象を『夢』として処理しているところはご愛嬌。『羊』と『夢』と『狼』になぞらえた小ネタに免じて許します。
(92点)
絵です。
(ところでこの完全読本、私も持ってないので欲しいです)